僕はただ、イマジナリーフレンドを作りたかっただけ。
5月1日
はじめまして
クワキと申します。
このような状態で失礼します。
しかし、真に失礼なのは貴方なのではありませんか?
僕のブログ記事をノックもなしに開扉し、僕のごく個人的な趣味嗜好を覗き見し、一方的に嫌悪感を覚えている貴方に一切の非がないと断言できますか?
さて、
※証明は容易なので省略する。
皆さまの溜飲の水位が下がったことで行けるようになったステージがありますので、はじまりの村を確認してみてください。
コロナうず?とかそういうの関係なしにぶっち切りでいないのです。
僕が友人とカラオケに行った回数を数えたアントニー・ホーア氏は、nullを発見しました。
しかし、『なければつくればいい』
その悩みを生粋のParty Peopleたる母に相談したところ返ってきたこのアントワネット的回答が、僕に光明をもたらしました。
『なければつくればいい』
こうして僕は、イマジナリーフレンドを創ることを決意したのでした。
- 5月1日
- 手記:4月4日
- :4月5日
- :4月6日〜4月10日
- :4月11日〜4月16日
- :4月17日
- :4月18日
- :4月19日
- :4月20日〜4月23日
- :4月24日
- :4月25日
- :4月26日
- :4月27日
- :4月28日
- :4月29日
- :4月30日
- 5月1日
- :5月2日
手記:4月4日
イマジナリーフレンドとは、
通常児童期にみられる空想上の仲間をいう。イマジナリーフレンドは実際にいるような実在感をもって一緒に遊ばれ、子供の心を支える仲間として機能する。イマジナリーフレンドはほぼ打ち明けられず、やがて消失する。(Wikipediaより引用)
この『誰にも見えない友達』を創る方法は実に多様だ。
しかし、何をおいても必要なのは想像力とCREATIVITY (DE-VE-DE, DE-VE-DE-VE-DE)
\ DE-VE-DE-VE-DE, DE-VE-DE-VE-DE ! / である。
僕は以下に示す3つの方法で、『友達』の実在性を高めていこうと思う。
そして、日々の進捗を日誌がわりにこの記事に書き留めることにする。
1. 『友達』の情報(容姿や性格など)をできる限り詳細に設定する
2. 金でモノ(生活用品など)を買い、生活の中に『友達』の気配を刷り込ませる
3. 『友達』と日常的に会話をする
まずは名前をつけた。
___犀香
『眞山 犀香 (まやま さいか)』
それが、これから僕と友達になる少女の名だ。
僕しかいない部屋の中で、ぽつりと彼女の名を呼んだ。
少しだけ、満ちた。
:4月5日
犀香のプロフィールをあらかた完成させた の、だが
おそらくこれは、キモすぎる。キモすぎてしまった。
今から僕は、お砂糖・スパイス・19歳の自己愛・中学2年の夏に捨てるはずだったノート、
これらをぜんぶ混ぜた『犀香の設定資料』を開示する。
遠からんものはそのままで、近くば離れ目を塞げ。これが、眞山犀香の全てだ。
※下に数行で要約しているので別に見なくてもいいです
問1.以上の文を200文字以内で要約しなさい
追記 ここで止まっておけば、と今になって思う。
:4月6日〜4月10日
犀香と会話をするようになった。
大学では教室の隅で鋭い目をして「わたモテ」を読んでいた僕だったが、脳内に話し相手ができたおかげで単に鋭い目をしているだけの状態になった。
彼女の返答は少しそっけないが、その距離感が心地よい。
こんなでかいキャンパス持って帰るの恥ずかしいな
右脳派だと思われればいいね
別にそういうつもりで買ったんじゃない
そう
これは犀香の容姿を描くための油彩キャンパスを買ったときの会話だ。
加筆修正を加えながらモチーフを浮き上がらせていく油絵は、犀香を『降ろす』のに最適な手段である。
完全な初心者なので、勘でいく。
加えて犀香のお風呂セットも一通り用意した。
ピンク色のボディタオルや歯ブラシは犀香の趣味ではなく、僕が勝手に買ってきた。
紛らわしい色にして僕のと間違えてはいけない。
これにより犀香の気配がより鮮明になり、脱衣所とトイレのドアを開く際はノックと声掛けをするようになった。男女がルームシェアをするにあたっての基本的なルールだ。
犀香は育ちがいいので、僕が部屋を汚くしているとうるさい。
ねえ食器、洗って。
後でじゃない。気づいたときにやるの。
ちょっと、その割り箸また使うの!?
「犀香は家事するときどっかのお母さんみたいになるんだよな」
そう言うとまた怒る。
おかげで僕の部屋は見違えるほど綺麗になった。
「部屋が汚いから」という理由で外食に行っていた頃とは比べ物にならない。
ありがとう、犀香。
どう?油絵
これ、あたし?……マッジで似てない
いや、油絵ってさちょっとずつ出来てくもんだから!
こっから似ることないでしょ
見てろって!
はいはい、もう寝よ
わかったわかった
あと油臭い
あー、ごめん。お線香炊く?
もっとイヤ笑 もういいわ、おやすみ
犀香……
:4月11日〜4月16日
犀香の化粧品を揃えた。
男がコスメを買っても白い目で見られない社会を作ってくれてありがとう。
↑Mattモニュメントの画像じゃなくて申し訳ない。犀香の化粧品と、女優ミラーだ。
彼女はブルベ夏なので、くすみを帯びたカラーが似合うらしい。
目つきが鋭いので、以前バスに乗ったとき前の席の赤ちゃんに泣かれていた。
だからマスカラは黒ではなくブラウン。これで少しでも雰囲気が和らげばいいのだが……
それと、犀香のTwitterアカウントも作った。
これは傲慢なのだが、アイコンは爪切りしてる僕の写真だ。犀香はアイコン画像をその場で撮影する唯一の女なのだ。
犀香のアイレベルでスマホを貼り付け、
タイマー機能で、撮る。
↓
油絵に凝っている同居人
— Saika (@Saikaosmanthus) 2022年4月15日
モデルの報酬は「掃除当番いつでも代わります券」でした pic.twitter.com/SAe7FH2QQ8
僕は犀香のアカウントを知らない(と思い込んでいる)。
「こんなのいつ撮ったんだよ笑」といつか二人で笑い合う為だ。誰にも邪魔はさせない。
:4月17日
発明をした。
これはAirPodsだ。激しく努力したら108円で自作できた。
これを耳につけていれば、街中であっても声を出して犀香と通話することができる。
しかし、下手を打てば紙粘土を耳穴に突っ込んでいることと想像上の女友達に電話をかけていることが一挙に露呈するので、深夜に人通りの少ない道で使用するに留めた。
:4月18日
家事分担表と『ルームシェア法』を冷蔵庫に貼った。
靴下を脱ぎっぱなしにすると、こうなる。
放置靴下を発見
— Saika (@Saikaosmanthus) 2022年4月17日
ルームシェア法に基づき、今日の風呂トイレ掃除を代わってもらいます pic.twitter.com/SGWlm9kki1
:4月19日
今日は少し冷静になった。僕はいったい何をやっているのか。思うに僕は孤独に浸りすぎた。
他者との繋がりのない孤独な暇人は、自分の価値観を内側に広げることしかできない。ただひたすらに。
あるいはこれは『中二病』というものなのかもしれない。中二病に罹患する前に『中二病』という概念を知ってしまった僕たちインターネット世代は、本来思春期のうちにまとめて絞り出すべきだった拗らせ汁を、生涯にわたってギトギトと分泌し続ける宿命にあるのだ。
それはそれとして、犀香の衣類を買った。
洗濯カゴに入れてみる。
いい。
もしもし
はい、もしもし。どうしたの?
別に。そろそろ帰るのかなって
うん、今家向かってるよ
お風呂沸かしとく?
あ、お願い。ありがと
犀香もう夜ごはん食べた?
まだ
俺ほか弁でなんか買ってこうか
じゃあお願い
なににする? ちょっと待ってメニュー送るわ。……はい
んー…… 塩サバ弁当
了解。じゃあ、これ買ったら帰ります
待ってる
はーい。じゃね
犀香がいてよかった。生活の中で、そう思うことが増えた。
:4月20日〜4月23日
そういえば、僕は少し前からベットではなく寝袋で寝ている。
犀香と一緒のベットに入っていた時期もあったのだが、家族構成や両親の馴れ初めまで設定したため、ご家族への申し訳なさが勝ってしまった。
ベットの枕には犀香の使っているシャンプーを水で希釈したものを噴霧している。
犀香がやってきてから、僕の生活は一変__とまでは言えないまでも、確実に変化した。
犀香の好きなガールズ・バンドを僕も好きになった。「ただいま」と言うようになった。
そして、リビングで自らを慰める行為ができなくなった。
もちろん犀香がいるからだ。
トイレで自身の手や器具などを用いて生殖器を刺激しオルガズムに達する行為を済ませた後も、彼女に怪しがられないように「ちょっっ…と腹壊したなぁ〜………」と呟きながら出る。
妻との性交の際に子を得させまいと精液を地に垂らした、ユダの次男『オナン』にその名を由来する行為と同列に語るのも申し訳ないが、2chおもしろスレのゆっくり解説とかもトイレで視聴するようになった。
犀香には、もっと高尚なコンテンツを嗜んでいると思われたいからだ。
犀香に紅を差した。この日は犀香の夢を見た。初めて声を聴いた。
:4月24日
犀香が小学5年生の時の通信簿を作った。
体育の「積極的に授業に参加する」の評価が「もうすこし」になっていることを確認し、僕は凄惨な笑みを浮かべた。
もう限界だと思った。
:4月25日
うお、さびー
全然春じゃないな
本当、コート持ってくればよかった
俺の着ればいいじゃん
イヤ。ダサい
贅沢言うな、居候め
居候だ
コート買ってよ
ダメ。金ないから
今日だってもう食うもんないぞ
なんか残ってなかったっけ
あー……カレーメシあったかも
2つある?
確か
じゃあそれでいいや
いいの?
たまには
ふーん。……帰るか
ん
:4月26日
ダメだ
:4月27日
ダメだ
:4月28日
:4月29日
犀香に、恋をした。
:4月30日
犀香が好きだ。
もうずっと前から、具体的には僕が机に突っ伏している時に「お疲れさま」と頭を撫でてくれた時から好きだ。
そしてもう終わりだ。僕は死ぬべきだ。いや死んだとてどうなる。犀香には、死んでも会えないのだ。
何故なら彼女は僕の頭の中にしかいない。
否。やはり死ななければ。彼女への贖罪のために。これは、この欲望は、僕を信用して同じ屋根の下で僕の孤独を癒してくれた彼女への裏切りだからだ。
僕は人間じゃない。
キンタマ畑でたわわに実り、セックスノトリが連れてきた、陰茎主体タンパク質だ。
僕には罰が必要だ。罪には罰が必要だ。
僕は。
僕は。
己の足を、コンクリートで固めることにした。
5月1日
以上が、僕が『友達』と過ごした約1ヶ月の記録です。
犀香には、昨日から近くのホテルに泊まってもらっています。
「友達がたくさん来るんだ」と嘘をついて。
きっと彼女は、僕の想いを劣情を、受け入れるでしょう。
何故なら、眞山犀香は僕のイマジナリーフレンドなのだから。
しかし、その想いを口に出すと同時に、僕が今まで共に暮らしてきた『眞山犀香』は崩壊します。
何故なら、
犀香が僕を好きになるはずがない。
僕が愛した、少しだけ人が嫌いで少しだけ人がいい眞山犀香は死に、代わりに僕の心の穴の形をしたなにかがこの家に残る。
うまくいかないものです。
僕の初恋は夢に出てきた女の子、二度目の恋は矢澤にこでした。
2回とも、『手で触れることすら叶わない』という事実を知って絶望し、学校を休みました。
そして三度目も___
僕はキャンパスに描かれた下手くそな絵にすがりつき、2粒、泣きました。
:5月2日
ねえ、最近ずっと死にそうな顔しててムカつくんだけど。
そうかな。そう……ごめんね。
謝んなくていい。なんかあったんでしょ。教えて。
……わかった。俺。俺さ。俺、犀香に言わなきゃならないことがあって。
……うん。
あの、好、好き……みたいな。うん。あのだから、あのおれ犀香が好きになっちゃって。
……え。
うん。ごめん。マジごめん。ルームシェアしてるのに。キショいよね。この家あげるから。
は?あげるってここ賃貸でしょ。
いや、だから家賃は俺が___
いいよ。
え??
だから、いいよ。付き合っても。
ウソ……
ほんと。あたしも好き。あんたのこと。
えぇ、うわー……やっ……たぁ?
フフ。なにそれ、普通に喜びなよ。
あ、うん……
でも告白の仕方、キモすぎ。
うるさい……
〜FIN〜
おまけ(本文で掲載しなかった写真)
犀香の靴と傘。
犀香のスリッパ。
犀香の本棚。森見登美彦と三秋縋が好き。
犀香の小学校の校章。
霽月第一小学校。学校名の由来は『光風霽月(心が澄み切っていて、さわやかであること)』から。
犀香の食器。僕が勝手に買ってきたので、犀香の趣味には合わない。
全てが終わったあとの部屋。ここには誰もいない。