梅雨なので、傘を食べる
漁師である叔父から、活きのいいビニール傘を譲り受けた。
時節は梅雨。黒潮に乗った傘たちが群れを為してやって来る時期だ。
冬季、海底に仕掛けた傘立てを引き揚げて捕る「傘立漁法」は今が盛りである。
そこで、今回はビニール傘をご自宅で下処理・調理する方法をお教えする。
①神経締め・血抜き
手元(ハンドル)を切り落とすと傘の脊椎が開口する。
奥までワイヤーを入れ、脊髄をこそぎ落とすように動かすと締まる。この時、反射で傘が開く場合があるので注意する。
手元を切断すると太い血管も同時に切れるので、流水に晒し血抜きを行う。
②石突きを落とす
石突きは傘の頭部にあたり、うまく切断すると脳幹を引き摺り出すことができる。
(画像中の赤色の器官)
脳は調理に使うので保存しておく。
③生地を剥ぎ取る
実はビニール傘の生地と骨は、石突き・露先の2点のみで接合している。
よって、②の工程を終えたら露先を手で全て外すだけで簡単に生地と骨を分離できるのだ。
生地は骨から離してもしばらくは動き続ける。
余談だが、瀬戸内海でよく捕れる折り畳み傘は石突きから露先までの間の骨も生地に癒着しているため解体が難しく、中〜上級者向けの傘とされている。
④骨格を分離する
分離した骨を、親骨・受骨・上ろくろ・下ろくろ・中棒・個体によってはバネといった部位にさらに分解していくのだが、ご存知の通り傘の骨格は強靭である。
ここは文字通り『骨の折れる』作業となるだろう。ダハハ!!
親骨と受骨を切り離すとこのように大きく伸長する。
傘の体長はふつう石突きから手元までの長さのことを言うが、徳川家11代将軍・徳川家斉の家臣である牧野忠精はこの伸長した状態の傘を計測し、「近海一の巨大傘」として将軍へ献上した。
牧野はこの不正が露呈し処刑されることになるが、この出来事が『かさ増し』の語源であるとされる。
ここまで分離できたら下処理は完了だ。
次項からは新鮮なビニール傘におすすめの調理法を2品、紹介していく。
傘骨のあら汁
①あらに塩を振り、30分置く
②沸騰した水を骨にかけた後、流水でウロコやぬめりを取る
いちど熱湯をかけることで骨格に残っている細かい傘袋も一緒に洗い流すことができる。
③鍋で水を沸騰させ、ハンドル・中棒・親骨・受骨の順に入れていく
こだわりたい方はハンドルと中棒を入れた後いちど火を止め、少し柔らかくなったタイミングで残りの部位を入れるとより濃厚な味わいとなる。
ワンポイントとして、この時、骨に少し切れ込みを入れておくとよりダシが滲み出る。
④灰汁を取りながら、水たまりをまわし入れて味付け
このとき、下準備の時に出た脳も一緒に溶かすとよい。
水たまりはご家庭の庭先で簡単に育てることができるのでお試しを。
⑤完成!
島津久光が英国東洋艦隊にこれを振る舞ったことが薩英戦争の引き金になったのはあまりにも有名。
傘の握り寿司
①前日から吊るしておいたてるてる坊主を細かくちぎる
てるてる坊主の材料として、関西では鼻セレブ・関東ではエリエール贅沢保湿が主に使われている。
また高湿度の環境で長く吊るしたてるてる坊主ほどグルタミン酸の分泌が盛んなことが、最近の研究で明らかになった。
②水たまりとよく混ぜ合わせる
破傷風に注意。虫歯のある人は食べてはいけない。
近年「水たまりは入れないほうがいいのではないか」という仮説がWHOで提唱されている。
③生地を捌く
ビニール傘の生地は透明すぎるため、調理過程で見失わないよう注意。
何を捌いていたのか分からなくなり、そのまま日常生活に戻ってしまうというトラブルが多数報告されている。
生地に付着しているバンドは軍艦巻きに使用するので、切り分けておく。
④握る
今回は生地の握り・天紙の握り・てるてる坊主軍艦・上ろくろの握りの4種を握った。
生地の握りに使用されている草みたいなのは、詳細は不明だが食べると舌にヒリヒリとした痛みが走るので傘寿司のスパイスとして重宝されている。
⑤完成!
ご賞味あれ!
ところで、体全体が入るほど大きく撥水性のある布を頭上に広げられる道具があれば、雨が降っていても濡れずに外出できるのではないかと最近よく考える。
傘寿司を食べている時などは特に、なにか重大なことを見逃している気がしてくる。
この記事を読んでいる方のなかに同じような現象が起きている方がいれば、ご一報頂きたい。
それではまた次回!